第4章 光秀逗留
眠った瑠璃をそっと横たえて、政宗は静かに部屋を出た。
幼い頃の記憶のようだった。
誰に叩かれたかまでは分からないが、
今の瑠璃を形作った出来事だったのではないかと推測する。
瑠璃の家柄は公家だ。
礼儀作法や勉学もきっちり学ばされるだろう。
躾として叩かれたとしても有り得る事だった。
(良い子にするから、か……
相当、堪えたんだな……)
そう思うと同時に、政宗も自分の幼少を思い出す。
母に疎まれ、弟と愛情の差を感じた。
罰として蔵に閉じ込められた。
身体を鍛えると言って酷く叩かれた事もあった。
右目を患ってから、小十郎と成実が
傅役(もりやく)として付けられるまで、
暗く寂しい幼少期だったが、
師、虎哉宗乙(こさいそういつ)にも出会い、
前向きに生きれるようになった。
今、幼少期の事で苦しむことは無い。
(お前はまだ苦しんでるのか……)
渡り殿に出ると、夜空を見上げる。
細い月が笑っている様に見えた。
(此処にはお前を苦しめる物は無い、良い子である必要も無いと、早く気付け。
楽になるぞ、瑠璃)
瑠璃の部屋の方を振り返って思う。
(気付かないなら、俺が何度でも教えてやろう)
瑠璃が苦しむなら救ってやりたいと思った。
その気持ちはどこから来るものなのか。
愛情なのか、ただの人情なのかーー。