第3章 初夏の訪問者
初夏
瑠璃が城に来て、二月(ふたつき)が過ぎた。
城の暮らしにも慣れてきた瑠璃は女中達の手伝いをしたり、
花を活けたり、掃き掃除を勝手にしたりしていた。
初め、瑠璃が手伝いをすると申し出た時、
女中達は必死に抵抗した。
「なりません。
政宗様がお連れになられた姫様に、私達の様な
仕事をさせる訳にはいきません」
断る。
「私は姫様ではなく、瑠璃です。
どうか、普通に接してください」
瑠璃は頼み込む。
「では、瑠璃様。
瑠璃様は政宗様のお命を救った方だと
お聞きしております。
その様な方に、雑用だなんて、滅相もない!」
断固として断られる。
女中達が断るのはもっともだった。
もし瑠璃に何かあっては、咎められるのは
自分達なのだ。
「お世話になってるのは私なので、
何にもしないわけにはいきません。」
女中達が顔を見合わせる。
「何があっても皆さんが咎められる事のないように、
政宗には私から話します。
私の粗相は私が責任を取ります。
簡単な事で良いですから、お願いします」
瑠璃はなぜ仕事を与えたがらないのかちゃんと
気付いていた。
女中達が自分に仕事を与えたがらない理由に。
「あんた…」
瑠璃が必死に頼んでいる処へ、愉快そうに笑いながら
政宗が姿を現した。
「瑠璃、小十郎に、後で俺の処に来るように
伝えて来い」
「政宗、はい、行ってきます」
言葉に従って瑠璃はすぐさま、小十郎の部屋へと
向かった。
「政宗様!」
女中頭の菊乃が政宗に対し声を上げる。
「アイツに何かさせてやれ」
「しかし…」
「お前達の邪魔にならない程度の事でいい」
女中達は渋っている。
「アイツが望まないのに、仕事を押し付けたとなりゃ、問題だが、アイツが望んでるんだ。
今みたいな雑用で構わない、時々なにかやらせてやれ。
アイツのやった事に不備があったからって
俺がお前達を咎めると思うのか?
ちがうだろ?
アイツの不備はアイツに責任を取らせる」
政宗は言い切る。
その政宗の言葉に女中達も渋々だが、
頷きながら理解を示した。
「かしこまりました」
と代表して女中頭の菊乃が頭を下げた。