第56章 苦しみの先
「くっっ…そぉぉっ‼︎」
謙信の言う通りだった。
やり場のない思いと、考えたくないことを考えない為に、無駄に出陣し戦に明け暮れているのだから。
見透かされていた。
対峙した刹那にもかかわらず、
空っぽな事を見事に見破られていた。
目的も目標も見失い、光のない闇を、
ただ、荒惑に暴れ狂って、
野に骨を散らしているだけの政宗。
そんな政宗の荒れた1年半はあっという間に過ぎていった。
(瑠璃、まだ戻って来ないのか……
…なら、いっそ、もう……)
陽射しの仄ぬるくなり始めた春の日
(諦めたい……)
ふと、そんな思いが政宗の心に湧いた。
それほど、瑠璃のいない時間は、
政宗を苦しめていたのだった。
※荒惑…こうわく/心が乱れ迷って善悪の区別がつかない。