第48章 或る日の安土城下(息抜き劇場)
そんな思いが謙信に陰を落とす。が、
「悪くない人に殺気なんて見せないでしょうし」
至って平然と話し始めた瑠璃。
「冷たそうに見えるのは、容姿が人並み外れて美しく、何事にも厳潔だからだと、私は感じました」
謙信は瑠璃の独り言のように、素知らぬふりで盃を傾け続ける。
「その、碧の瞳は、滝壺の淵みたいです。
吸い込まれるみたいに清らかで、深い淵…
悲哀も愁泣も全部その淵に落としてしまったみたい。
もう片方の薄青の瞳は、氷みたい。
冷たくて硬くて、でもなぜか温かくて、脆い…。
透明で汚れの無い結晶みたい。
とても美しく麗しいです」
そこまで言うと、瑠璃は、瑩潤で輝く笑顔を謙信に向けた。
(この女はーー…思ったより真っ直ぐな心を持って純粋に人を見るのだな…)
謙信は意外そうな驚いた様な表情をした。
※瑩潤…艶やかに光っていること。