第8章 神無月の決断
「あっ、でも、小さい時はしたかも。
ちゅう」
唇を指で示しながら、ちゅう と言っている。
「どこに?」
「ここに」
指はずっと唇に置かれている。
「何でっ」
「正兄の事、大好きだったから。
私、正兄のお嫁さんになりたかったの。
夢、叶っちゃうかもしれませんね」
「勘弁してくれよ〜。
最後まで聞いても、兄上の代わりじゃん…」
(俺、泣きそ……)
「違いますよー。
政宗の方が格好良くて、政宗の方が好き」
(あ"〜そんなとこ素直で、苛っとするわ…)
神無月の終わりの頃、
瑠璃はこの時代に生きる事を決めた。
香る銀木犀と恋の始まりと共に。
〈愛し君 果てまで届く 花の香に
乗せて送るは 恋心〉