第8章 神無月の決断
瑠璃がこの時代に来てもう、半年が過ぎた。
(きっと、帰れないんだろうな……)
庭から※銀木犀の花の香りが漂ってくる。
青草が生え始めていただろう平原は
焼け爛れ、きな臭く、
倒れ呻く人、息絶えた人、
いななく馬、血の臭い、
地獄絵図だった。
それから、夏が過ぎ、秋が来た。
眠ればまだ、今だに夢に見て
うなされるけれど、
帰りたいとも、寂しいとも思わず過ごした。
(光秀様も来ていて、案外楽しく過ごしたわ)
ふふふ、と思い出し笑いをした。
帰りたいとは思わなかったが、
もしかしたら 帰れるのではないかと、
少なからず思っていた。
でも、半年が過ぎた。
もう、帰る機会は来ないかもしれない。
それに、
帰らなくても、ここに居ても、いいんじゃ
ないかと思っている。
政宗が、何度も言ってくれた。
『お前を縛るモノはない。お前らしく、
自由に生きていいんだ』
(私らしく生きられるなら、帰らなくていい)
冷たい家ではないのだろうが、
暖かい家でもなかった。
(もう、あそこは必要ない)
立ち上がり、現代から一緒に来たカバンを
手にすると、中を探った。
(※銀木犀は実際は江戸時代に日本に入ってきた木です)