第44章 煙に霞む屋敷廓
大きな商家の離れの茶室で男が優雅に茶を啜る。
「で…平戸屋さん、商いの調子はどうだね」
狡猾な表情を見せて問う。
「積荷も多く、船もぎょうさん、出させてもらってます」
「そうか。しかし、船の数は注意しておくんだぞ」
狡猾な笑みを仕舞い、また、澄まして茶を一口啜る。
「それにしても、あの阿呆煙草はええらしいですね。
特に煙草を吸って女を抱けば極楽だとか」
船商家 平戸屋 の主人が色を示し、
好色の瞳になるが、
「極楽だろうともよ。
けど、手ぇ出したら駄目だからな」
これまた、男が注意する。
男はその今流行りの『阿呆煙草』を広めている張本人だ。
「下間様は嗜まれるのですか?」
「ワシはやらん。絶対にな。
アレをやれば 阿呆になるからな」
「はっはっははは、ですから『阿呆煙草』ですがな。
下間様も冗談がお上手で」
呑気な平戸屋主人の笑い声が茶室に響いた。