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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第5章 スカーフ



 ぐすっ、と鼻を啜る音。泣いているのだと理解したのと同時に、スカーフが乱れている事に気がついた。言葉を喉奥に閉じ込めたまま、そっとそのスカーフに触れようとするとビクリと体を大きく跳ね上げさせ、それと同時に下がっていた視線が勢い良く上がる。
 ずり落ちそうになっていたスカーフを手で止めながら、大きな瞳を揺らし許しを乞うような視線を向けてくる。

「…これからも、そんな事を続けていくの?」喉奥に閉じ込めていた言葉を、やっとの思い出で遥へと吐き出した。

 名前の言葉を受け、見開いていた目が一瞬更に大きくなってーー直ぐに細められ、そして伏せられた。長いまつ毛が小刻みに揺れている。そのまつ毛には涙の粒が散りばめられていて、悔しいくらいに綺麗で、儚い。
 思わずその涙の粒に触れようとしてーー我に返り手を止めた所を、遥の手が触れてきた。スカーフを抑えている手とは反対の手で名前の手に触れながらそっと口を開く。

「名前が、名前、が……ずっと、私の傍に居てくれるなら…もうしない。ねぇ、お願い、お願いだから…他の人を見ないで、私を見て。他には何も望まないから、名前だけは…私を、見ていて」
「………」
「…お願い。名前が居てくれれば、耐えられるから…」
「…そう、分かった」

 抑揚のない小さな声でそう呟いた。正直遥が何に対して言葉を紡いでいるのか、分からないところが多々あった。しかし、きっと友人を知らない男に取られるのが嫌とか、そう言う事なのだろうと考え流す事にした。疲れてしまったのだ。怒りの炎が弱まった今、縋り付く遥を見て後悔と同時に"早く仲直りしなければ"と言う思いが強くなる。
 張り詰めた空気は名前の体を強ばらせ、少しずつ精神を削っていく。早く仲直りをして、この後悔と張り詰めた空気から解放されたい。そう思った。
 自分から怒ったくせに、なんとも自分勝手だ、と名前自身も思った。それでも、早く仲直りをしたかった。

「…仲直り、しようか」

 そう呟けば、遥は目を見開きみるみる青白くなっていた顔色から、徐々に赤色を滲ませ「うん!」と元気よく頷いた。

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