第5章 スカーフ
月日は流れ、六月になった。初夏、と言われるだけあって日差しが強く、少し動くと汗ばむ陽気だ。夏本番には適わないが、暑いのが苦手な人にとっては嫌な時期の始まりである。
「あっつー…暑い…スカーフ…暑い…長袖…暑い…」
「大丈夫?遥。今年も暑くなるみたいだから遥にとっては地獄だね」
「嫌なこと言わないでよ……今から気分が滅入ってくるわ…」
自席の机にぐったりと倒れ込む遥と、そんな彼女を下敷きでパタパタと仰ぐ名前。暑いと言えば暑いのだが、長袖を着ている遥に比べたら幾分マシだろう。
彼女は体が弱いのか、出会った時から喉にはスカーフ、夏でも薄い長袖を着用していた。あまり日差しが強くなければ、肌を出しても大丈夫らしいのだが念には念をで一年中長袖を着ているのだ。
「通気性がいいって言うからこのサマーカーディガン買ったのに前のやつとそんなに変わらない…暑い…脱ぎたい…」
「我慢しよう?今日はちょっと日差し強めだし。ほら、風だよ~」
「あ"~~~涼しい"~~」
パタパタパタ。下敷きで風を送りながら、ぼんやりと遥を眺める。送られてきた風により、踊る髪も、白い肌も、ほんのり赤い頬も、リップを塗ったかのように艶のある赤くて綺麗な唇も、大きくて綺麗な瞳も、長い睫毛もーー。
ーー完璧、だなぁ。
そんなことを思う。男性どころか、同性の名前が見てもそう思ってしまうほど容姿が整っている遥。
ーーこれで、性格がもう少しマシであったらもっと男女問わずモテるんだろうなぁ…。
女子とは「つまらない」と言ってあまり話はしないし、男子とは話はするが自分からはあまり行かない。遥が自身から男子へと進んで話しかけに行く時は、必ず名前が絡んでいる時だ。
まるでその男子に気でもあるかのような言動をするものだから、話していた筈の名前の事など放ったらかしで男子達は夢中で遥と話す。
『私はアンタが居ればそれでいい』
遥は時折真剣味を帯びた表情でそう零す。
最初のうちは親友からのその言葉に照れ臭さと嬉しさを感じていたのだが、徐々にそれも薄れてしまった。