第1章 プロローグ
視線の先は仏壇。大きな部屋の隅にひっそりと佇むそれに、旭の写真が立て掛けられている。遥にとてもよく似ていて、可愛らしい顔立ちだ。まるで女の子のよう。きっと並んで立っていたら双子の姉妹と見間違えられていた事だろう。
事故、だと母親は言った。家の前の道路で二人仲良くボール遊びをしていて、取り損ねた遥がボールを追いかけ車の前に飛び出したらしい。それを庇った旭が代わりに車に轢かれてしまいーーそのまま、亡くなった。
ポツリ、ポツリ。
母親の口から紡がれる言葉。父親は眉を八の字にし、今にも泣きそうな表情をしていて、遥はーー…
『…名前、』
不意に遥がか細い声で名前を呼んだ。
『なに?』
『ずっとわたしのとなりにいてね』
『?うん。もちろん』
『ずっとわたしをみててね』
『うん』
『ありがとう』
そう言った遥は泣いていた。旭の名前がポツリと彼女の口から漏れ聞こえた。罪悪感に襲われているのだろう。それを取り払うように、少しでも楽になるようにーーと、名前は無言で彼女の背中をそっと撫で続けた。
兄を亡くした。しかも自分を庇って。きっと遥は自責の念にかられている事だろう。名前な言葉の代わりにずっと彼女の背中を擦り、時にぽんぽんと軽く叩いたのであった。