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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第4章 揺れていたもの、落ちたもの



 新学期が始まってから一週間が経った。あれ以来名前は白石とあまり言葉を交わしていない。
 挨拶と、その後の軽い会話のみ。ええ天気やな、そうだね。その程度の会話でもほんのり気持ちが温かくなる名前の元へと、必ず遥はやってきた。

『なんの話してるの?』

 そう言ってふんわり微笑む彼女、白石も同じように微笑みながら朝の挨拶を交わしてーーそのまま二人の会話が弾む。白石が好みそうな話題を、さり気なく会話に少しずつ散りばめているせいか必ず会話が盛り上がるのだ。
 この一週間で知った白石蔵ノ介と言う男の好きな物事は、毒草に詳しかったりチーズリゾットが好きだったり…家には健康グッズがあって今は全身うつる鏡が欲しいだったり、夜風呂上がりにはヨガをやる…だったり。
 それらの情報は全部が全部遥から教えてもらったものだ。教えてくれ、とも言ってないのに得意気な顔をしてペラペラスラスラと話す彼女にほんのり苛立ちを覚えるものの、白石の事を知れて嬉しいと思う気持ちもあった。

『遥は白石くんが好きなの?』

 会話に合わせて楽しげに手を踊らせる遥に、顔に笑みを貼り付けながらそう問うてみた。
 すると彼女は、

『え?私が?白石くんを?あっは♡ないない!話すのが楽しいから話してるだけだよ。けどなーんか向こうの視線が最近ちょっと変わってきた気がするんだよねぇ』

 などと言葉を紡ぐ。ふっくらとした形のいい、そして艶のある唇がひとつひとつ言葉を紡ぐ度に名前は苛立ちから頭が可笑しくなりそうだった。
 確かに、この一週間で遥へと向ける白石蔵ノ介の視線は少し変わった気がする事を、名前も理解していた。
 爽やかな笑みを浮かべていた彼。今現在の彼の笑みは変わらず爽やかなものではあるが、ほんのり頬に赤色が滲むのだ。遥と話している時だけ。
 彼の反応は間違いなく恋をゆっくりと始めているそれであった。しかも、遥に。やはり遥は自分の事を好きなるように相手の心に恋心と言う尊いものをうませるのが上手いな、と感心するのと同時に名前は鼻で笑う。

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