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テニ夢企画用

第3章 【優しく積もる淡い恋】千石清純


彼との再会は偶然の出来事だった――。

傘も差さずに雨に打たれながらゆっくりと歩く私をすれ違う人らは怪訝そうな目で見ていた。
まぁ、それも一瞬の出来事だし、私の被害妄想からそう思っているのかもしれないけれど。

トボトボと道を歩く。
降り注ぐ雨が段々と強くなっていき、私の髪を濡らし毛先から落ちてゆく雨の粒も段々と大きく感じてきていた。
夏だというのにこの通り雨に打たれているせいで体が芯から冷えているのがわかる。きっと体が冷めきっているのは雨のせいだけでは無いのだけれど自身の置かれた状況がその理由を理解したくなくて分からないふりをした。

どれぐらい歩いただろうか?
段々と駅前から離れていくから人通りも少なくなってきていた。
知らないこの街で宛もなく歩いている私はそろそろ現実を見るべきだと思いながらも先程見た光景が離れずに雨と一緒に静かに頬に涙が伝ったその瞬間の事だった。

「風邪…引いちゃいますよ?」

そう声をかけられて私はゆっくりと声のした方へと顔を向ける。
私に傘を差し出して微笑んでいる青年がそこにはいた。
その人は私を目が合うと驚いた様で先程の微笑みが消えて驚愕した表情へと変化していくのを私は黙ってみていた。

「もしかして…【夢主名字】さん?」

そう声をかけられて私は静かに頷く。
この人は誰だっただろうか?
私はうまく働かない思考をゆっくりと動かしていく。

大学での知り合いではない…はず、高校は女子校だから男性の知り合いなんて数えるほどいなかった。
じゃあ…いつ?
でもこの人の顔、どこかで見たことがあると思い私はジッと彼を見つめる。
そんな私を見て話しかけれくれた彼はアハハと苦笑しながら彼は名を名乗ってくれた。

「やっぱり覚えてないか。中学の時に同じクラスだった千石なんだけど。千石清純。覚えてる?」

そう言って苦笑した彼の表情が急速に過去の彼と重なって見えた。
私は「あっ」と小さく声を出してから、何度か頷いた。
そんな私を見て彼は「もし良ければ友達の家なんだけど…あ、女の子だから安心して?」と言ってから「風邪引いちゃうと思うし」と付け加えて彼は私に有無を言わさずに私の手を引き連れ出してくれた。
昔の私ならきっと遠慮しただろうけれど、今の私は自暴自棄になっていたのでおとなしく彼に連れられていく。
これが私と千石くんの再会した夏の日の出来事だった。
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