第2章 【人気者の君に妬く】丸井ブン太
「ブン――」
でも私の言葉がブン太の名前を言い切る事は無かった。
それは私の唇がブン太の唇によって塞がれてしまったせいで喋ることが出来ないからだ。
「んっ…」
いつまでも離れる事のないブン太の唇に内心パニックになる。
羞恥心と、嬉しさと、呼吸の出来ない息苦しさで私はどうしていいか分からなくなってしまう。
息が出来なくて離して欲しいとブン太の胸を叩く。
「んー!」
私が声にならない訴えを何回かするとブン太の唇が私の唇から離れていく。
少しだけ名残惜しい気持ちもないわけでもないけれど、そんな事よりも呼吸が出来なかったことの方が問題だった。
はぁはぁと酸欠気味だった私が口で呼吸をしていると、そんな私を見てブン太は笑った。
「鼻で息すんだよ」
「え…?あ!そ、そっか…」
ブン太が笑いながらそう告げてくれて私は納得した。
パニックになっていてその考えが全然浮かばなかったと私は苦笑した。
そして私と違って落ち着いているブン太をジロジロと見てしまう。
「なんだよ、その顔」
「慣れてるんだなぁ…って思って」
私がそうふてくされて告げると、きょとんとした表情をした後でブン太は笑った。
なんで私の言葉で笑われたのか分からず困惑してしまう。
「慣れてなんかねぇーよ」
「だって!」
「こんな事すんの【夢主名前】が初めてに決まってんだろぃ」
そう言ってブン太は私をギュッと抱きしめた。
急に抱きしめられて驚いてしまったが、くっついた私とブン太の体によって、ブン太の心臓がドキドキと早く動いているのが伝わってきた。
抱きしめられてるせいでブン太の表情は見えないが、少しだけ見えるブン太の耳は少し赤かった。
照れているのだろうか?あのブン太が?と思うと私は笑ってしまった。
すると「笑うなよ」とブン太のふてくされた声が私の耳元をくすぐる。
「嬉しいなって思って」
「…そうかよ」
私が素直に感想を述べると、そっけないけどでもそれは照れてるからと分かる声音でブン太の返事が返ってくる。
それがまた嬉しくて私の胸が温かくなっていく。
幸せだなと私はブン太の腕の中で思ったのだった。
Fin.