第1章 【見えない角度で手を握り締め】財前光
それが恥ずかしくてギュッと目を瞑ると、頬に彼の唇の感触が伝わる。
恥ずかしくて、照れくさくて、せやけど嬉しくて、顔がニヤけるのが分かる。
だらしぃへん表情を晒してもてるんやろうなと思った。
「あんま可愛い表情、他のやつの前で更さんといて」
「は…はい」
財前くんからの急激な甘い言葉の連続に私の頭はくらくらしてしまう。
せやけどそれは全然嫌やのうてむしろ凄く嬉しい。
だからと言って心臓があまり持ちそうにないので別の意味ではとても辛い所もあるのだけれど。
そないな事を思いながら彼を見とると、ふと彼の後ろにある本棚の一箇所に目が止まる。
先生から頼まれとった本のタイトルが目に入ったからや。
「あ!」
私は見つけた嬉しさで急に大きな声をあげるから財前くんが驚いた表情で私を見据える。
私はそないな事もお構いなしに見失わんうちにと、財前くんの後ろの本棚に手を伸ばす。
そして彼の体の横にあった本を棚から取り出す。
「これ!」
先生から頼まれとった本を私が財前くんに差し出そうとして気付く。
本を取ることに必死で自身が物凄く大胆な事をしとった事に。
「――っ!?」
本を取ることに必死で全然気付かなかったが私自ら財前くんに抱きつきにいっとった。
なんて事をしてしもたのだろうと戸惑い、慌てて離れようとするとギュッと財前くんに抱きとめられてしまう。
彼の顔が私の肩にもたれかかっていて表情は分からへんかった。
「…こないなとこや」
「え…」
「こないな無防備な所もほんま勘弁してくれへん?」
肩口から聞こえてくる財前くんの声はくぐもっていてわかりにくいけれど怒っとるわけではなさそうで安心する。
「ごめんなさい」
「俺以外にしぃひんやったらええわ」
「うん」
私が頷くと財前くんは肩に埋めとった顔をあげる。
少し照れくさいみたいで頬が赤くなっとった。
それを見て、ちゃんと私好かれてるんだと嬉しくなる。
あれだけ不安やったのに財前くんの言葉や態度だけでこないにも幸せになれるのだなと私は幸せを噛みしめる。
我ながらほんまに単純だなと思うけれども、好きな人から向けられる好意に対してそう思ってしまうのは当然なのだから仕方ないわと内心笑う。
たまにはすれ違いや喧嘩もあるかもしれへんけど、いつまでも財前くんと一緒にいられるとええなと私は思ったのやった。
Fin.