第8章 [う] うちにおいでよ。....R18
美人というのはつくづく特だと思う。
「黒尾くん、、、お湯を下さい、、、」
その日の晩。玄関を開けるとちょっとダサめなジャージ姿の茉莉さんが立っていて、その出で立ちに不覚にも俺の胸の奥はキュンと音を立てた。おまけに訳の分からないお願い事も二つ返事でOKして部屋に上げてしまう始末だ。
男ってのは、バッチリきめきめな女よりも、案外こう言う自然体な姿にときめくもんでーーー。
「ん゛?、、お湯?」
「コレを食べたくて、、、」
手に持っているカップラーメンを見てようやく合点が行く。
「あぁ、お湯ってそういう。え?まさかガス通ってないんですか?電気は?」
「両方通ってるの!でもヤカンやケトルが無くて、、、」
お湯を沸かすことも出来ないってどんな生活状況だ?と正直疑問に思う一方で、年上の綺麗なお姉さんと部屋に二人っきりと言うのは、男子大学生的にはかなり美味しい展開だ。
実際、もし茉莉さんがまた部屋に来るようなことがあったら、、、という昨夜の脳内シミュレーションの甲斐もあり、部屋はよく片付いていた。
俺はいそいそと新品の電気ケトルに水を入れボタンを押す。
「茉莉さんて普段何食べてるんですか?」
「あー。ちょっとバカにしてない?」
「いやいや!まさか!」
「どうせコンビニ弁当か外食ですよー!私、勢い余って引っ越してきたからまだ全然揃ってなくてさぁ。」
「なるほど。あ、お湯どうぞ。」
茉莉さんは一見普通に見えるのに、なんだかその枠ではどうにも説明がつかないミステリアス感があった。
女子の一人暮らしなんて、まず始めに家具家電を自分好みに揃えて、そんでもって、それにピッタリな部屋を探しそうなもんだ。
彼女は外見だけ見ればそんな世間一般的な女子に見える訳だが、実際のところ、お湯も沸かせないような生活状況で、住んでるのはお世辞にも小綺麗とは言い難いアパートだ。
俺は縦長のカップ麺の容器の内側の線を意識しながらお湯を注ぎつつ、そんな事を考えていた。
「黒尾くんて親切ね。」
「よく言われます。」
「それに面白い。」
クスクスと笑いながら彼女はとびきり可愛い笑顔を俺に向ける。
(うわー、、、
これは反則じゃねーか?)
胸の鼓動がドクンッドクンッと、身体の中に響いた。