第6章 [つ] つよがりの先に
≫鉄朗side
俺のよく知っている香りと少し冷たい彼女の背中。でも今は俺の腕の中に帰って来てくれた。湧き上がってくる色んな感情が“おかえり”と一言伝えるだけで穏やかに収まっていく。
「…マジでホッとした」
「ごめんね」
「謝るのはもうなし…。でも次一人旅する時は行き先言ってからにしてね」
茉莉を待っている間にあれもこれも伝えなきゃと考えてたのに今はそんな必要もない。“うん”と頷いた笑顔が俺に向けられているだけで十分なんだ。
「でもしばらくは一人旅はしないかな」
「なんで?」
「ほんとはね、一泊して美味しいもの食べて温泉にゆっくり入って観光地巡ってってする予定だったのに結局行けたのは神社だけなんだ。しかも絵馬も御朱印も忘れちゃった」
「おいおい、何しに行ってたんだよ」
「だって鉄朗がいないだもん」
「えー?お前が俺の事置いて行ったのに?」
茶化すように言ってみるけど、でも、俺を忘れないでいてくれてそれが嬉しくて、続く茉莉の言葉につい期待してしまう。
「はじめはよかったの。見える景色が全部新鮮で楽しくて…。でもね、鉄朗がいないと何か足りなくて。寂しいって思ったら途端に会いたくなって、それで帰って来ちゃった」
「また行けばいいじゃん。次は俺も行く」
「ほんと?」
「休み取れたら行こうな?」
「…うん、ありがとう」
茉莉が見た景色を俺は知らない。だけどその一部に俺を重ねて見てくれていたことで空白の時間にも意味があるように感じる。
「んじゃもう遅いし家に帰ろうぜ。家の掃除もしといたから後で褒めて?」
「ほんとに?」
「ほんと。あと今日からパンイチで寝んのも卒業する」
「どうしたの?なんかあった?」
「俺だって色々と考えることはあったの。…今は言わねぇけど」
「えー?なんで?教えてよ」
「いつかな」
「言いかけて言わないなんて狡い」
「ちゃんと言ってやるよ」
不安に感じた想いも言い換えればそれは全部茉莉への想いには変わりない事。
「だから楽しみにしといてネ」
「なんか怪しいけど、でも鉄朗がそう言うならうんと期待しとく」
「期待以上のもん返してやるよ」
俺がどれだけ茉莉のことが好きなのか、時間をかけて伝えていくから。
だからずっと俺の側にいて…。