第6章 [つ] つよがりの先に
≫鉄朗side
茉莉から返事がきたのは昼前だった。いつでも連絡が取れるようにスマホを肌身離さず持っていて、茉莉の名前を見た瞬間に涙が出そうなほど安堵した。
“わがまま、ごめんね”
内容はそれだけ。
でも今はそれだけでいい。
“ごめんね”と付けるところが茉莉らしくて、できることなら今すぐ居場所特定してすっ飛んでいって抱き締めて、ポケットの中に仕舞い込んで連れて帰ってきたい。
スマホの画面には二人で撮ったツーショット写真。俺の隣で笑顔で映る茉莉には届くことのないSOS。
「…茉莉がいねぇとこの部屋、広すぎんだって」
ごろんと寝転がって見た天井には日の光が差し込んで、舞い上がった埃に色を付ける。
「早く帰ってきて茉莉ちゃーん…」
情けない心の叫びは虚しく消えていく。
静かすぎるこの空間とゆっくり流れる時間はまるでファンタジーのような世界。俺一人だけを残した世界は白い天井さえも歪んで見えて無力な自分だけが力無く横たわっている。
静かな自問自答は茉莉の存在を色濃くさせるだけだった。
このまま茉莉が帰ってこなかったらどうする?
なら仲間集めて囚われの姫を連れ戻すための旅にでも出るか?めちゃめちゃ経験値積んで限界突破つけてラスボスもなんなくクリアしてさ、格好良く姫の前に現れてもう一回プロポーズすんの。ハッピーエンドしかないRPGの最終章みたいに。
もし心変わりしていたら?
ならそれはきっと茉莉の偽物だな。茉莉はそんなに簡単に心変わりなんてしない。例え俺のことを忘れても茉莉はいつか必ず俺のことを思い出す。俺が諦めない限り茉莉は絶対俺に応えてくれるから。そう思えるのは強がりじゃない、こんな状況になっても呆れるくらい誰よりも信じているから。
苦しく感じる呼吸。もどかしさ。見上げれば茉莉がいつも座る席には置いていったぬいぐるみ。ころころとした目があいつにそっくりで、いつもにこにこ笑ってた。俺のことを一番に考えてくれなくても側にいてくれるだけでよかったんだって今更になって気付く。当たり前にあったあの笑顔が今は恋しくて堪らない。
部屋のインターフォンが鳴ったのは、頬を伝った涙が乾いてからだった。