第6章 [つ] つよがりの先に
“もしもーし、緊急事態でーす”
とは言えいつまでも落ち込んでる訳にもいかない。こうなったら苦肉の策。
“……なんだよ、朝っぱらから”
電話の相手は夜久、とその彼女。時間も時間だし迷惑かけてんのは分かってるけど今はそんなこと関係ない。
“茉莉がいねぇんだけど知らないよな?”
“なんで?”
“朝起きたら置き手紙残していなくなってた”
“何したのお前”
“それが全く見当がつかなくて。メールも返信ないし電話も繋がらなねぇしで、香奈ちゃんの方にでも連絡いってねぇかなと思って”
“まだ寝てんだけど…”
“そこをなんとか”
“まぁ何かあってもあれだしな…、今起こすわ”
今きっと香奈ちゃんは夜久の隣で寝てるんだろうな…。一部始終が聞こえてきて羨ましくて情けない。
“黒尾君?…今メール見たら連絡来てたよ”
“マジ?何て?”
“鉄朗が心配して連絡するかもしれないけど、明日帰るから心配しないでって伝えておいて、だって”
“それだけ?”
“あとはガッツポーズしたスタンプだけ”
“え……”
“何があったのかは知らないけど大丈夫なんじゃない?この前会ったときも変わりなかったし、一人になりたかっただけとか。明日になったら帰ってくるって”
“手紙にもそうは書いてたけど”
“なら大丈夫だよ”
そりゃ生存確認はできたのはいいけど、大丈夫って俺が大丈夫じゃねぇし。
“…あ、黒尾?”
“何?慰めてくれんの?”
“それはないけど、今は変に詮索しない方がいいんじゃねぇかと思っただけ”
“頭冷やせと?”
“そう。気持ちは分かるけど今はそっとしといてあげれば?”
“俺の気持ち汲んでくれるなんてやっさしぃ”
“…切っていいか?”
“冗談だって。けどまぁそれなりの理由があるって事は分かったから。…悪かったな、朝早くから”
“いや、お互い様だろ。もし茉莉ちゃんから連絡あったらすぐ連絡するから”
“頼むわ”
“ああ、じゃあまた”
茉莉が無事なのは分かって安心はしたけど、結局のところ原因は分からないまま。一人取り残された部屋で感じる孤独感が痛いくらいに突き刺さる。
「俺、何かしたんでしょうか…?」
返事がないのは分かっていても、茉莉の声が聞きたい…そんな思いでいっぱいだった。