第4章 [お] おとがいにそっと口付けて....R18
見ての通り――という言葉を飲む。
黒縁の伊達眼鏡に白衣姿。
さすがに「私服」というには無理がある。
俺は、意味もなく人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げてからニヤリと笑った。
「黒尾先生と呼びたまえ」
「理科の実験でもするの?」
「黒尾先生」
「はいはい。黒尾先生っ。…で、なに、理科の実験教室がクラスの出し物?」
「違ぇーよ。病院のセンセー。クラスの出し物は『病院喫茶』です」
ポケットに突っ込んでた聴診器を首にかけてからイヤーポケットを耳に突っ込んで、俺は診察の真似事をしつつシュールなネーミングを伝える。
「病院? それとも喫茶店?」とは彼女の尤もな質問。
「病院って名の喫茶店。心理テストという名の診断の元、処方されたお茶が飲める喫茶店」
「名前の割に意外と普通だね」
「そりゃそうだ。学祭の喫茶店にどんだけレベル求めてんの、お前」
笑って突っ込んで、ふと、俺はちょっとしたいたずらを思いつく。
休憩時間はまだたっぷりあるはずだ。
さっと周囲を見渡せば、手近な教室のプレートは「進路資料室」。
お祭り騒ぎの最中、こんなところに来るやつはいないだろう。俺は決心した。
「じゃあ、折角だから普通じゃないこととかしてみっか」
出し抜けに言い放ち、なんのことだかわからないでいる彼女の手首を掴む。
「ちょっ、鉄朗?」
動揺の声をまったく無視して進路資料室の扉に手をかけてみると、幸いなことに鍵はかかっていない。
深呼吸1回の後、扉をスライドさせて開けた部屋の中には長机4本にパイプ椅子8脚。誰もいなかった。
遮光カーテンが閉められたままで薄暗い室内は手狭で、人が隠れているようなスペースもない…心の中で幾重にも重なった幸運を神様に感謝して、俺は彼女を部屋へ引き入れた。
「ここ、入っていいの?」
尋ね聞いてくる茉莉に向き直り、俺は、
「知らね」
と無責任に言って、扉を閉める。
もちろん、施錠もきっちりと。
雰囲気を察した茉莉が「鉄朗」と俺を呼んだけれども、常識的なことを言われる前に抱き寄せて、その唇を封じてみせる。
「ん…鉄朗ッ…なに…ッ」
「言ったろ…ンッ…普通じゃ、ないこと…ン…するっ、て…」
彼女の上唇を舐めては俺の唇で挟むように食む。
「なに…ねぇ、鉄、朗…?」
「ン…ちょっとした、お医者さんごっこ」