第4章 [お] おとがいにそっと口付けて....R18
踵を返した彼女のスカートの裾は風を受けてひらひらと踊り、俺はその光景に一瞬見惚れた。
あくまで「一瞬」の話。
…いや、だって、俺は彼女、茉莉に見惚れてるわけにはいかんから。
渡り廊下のあっち側は本校関係者以外立ち入り禁止。つまり、俺は良いけど、音駒の生徒じゃない茉莉は入っちゃダメ――俺は彼女を引き止めにゃならんのデス。
「そこのお嬢さーん!」
俺は彼女を呼ぶ。
そこそこデカい声で。
視界の隅、中庭で乳繰り合ってた、もとい、和気藹々としていたカップルがビビってこっちを向いた。けど、俺の彼女サンの耳には届かなかったらしい。
再登場の気配はないときた。
(マジですかー)
あっちも俺のことを探してるから気付くはず…なんて都合の良い解釈は通らなかったらしい。
俺は渡り廊下を小走りで駆け抜け、この文化祭期間中はひっそり静まり返っている別棟に飛び込んだ。
「茉莉さーん…茉莉ちゃーん…茉莉ー!」
片手を口元に当てて、俺は迷子を探す要領で彼女を呼ぶ。
校舎に入ってすぐの廊下を折れて、もう1度名前を…と思った矢先、いた、俺の恋人。
どこへ向かっていたのか不明ながら、ひとまず足を止めて弾かれたように振り向いた。
「鉄朗?」
問いかけてくる声と同時に、こちらを向いた彼女のスカートが風を受け、ふわりと舞う。
軽やかに、自由奔放に。
中学時代には見慣れていたはずの光景に、俺はまたしても見惚れかけた。
それを悟られるのが恥ずかしくて、咳払いでごまかしてから茉莉の元へと歩を進めて行った。
「どこ行くつもり、お嬢さん。…こっちの校舎、立入禁止だっての」
「あ、やっぱり? やけに閑散としてるなーって…」
あっけらかんと言う茉莉。
まぁ、この辺は想定内。
方向音痴の代名詞たる彼女が、パンフレットに描かれた簡易的な校内見取り図ごときで迷わず目的地にたどり着けるわけはない。
毎年来てるとしても、だ。
「皆川さーん、着いたら連絡入れたらその場から動くなって言いましたよねー?」
「今年は行けると思って」
「根拠のない自信、怖いわー」
「怖いねー」
他人事のように言う彼女の頭をコツンと小突くと、悪びれずに笑った茉莉は俺を見上げながら「…で」と話題を変えた。
「鉄朗、その格好、なに?」