第3章 [ろ] ローテンポだって悪くない
告白って…。
心の準備もねぇのにできるかっての。
大体、春高行きが決まったばっかだ。
改めて気合い入れねぇとって時に、他事考えてる場合じゃない。
そのタイミングは、今日じゃねぇよ…。
頭の中でそんなことを考えながら、皆川が待っているはずの場所に辿り着いた。
「あれ?いない…」
さっきまで座っていた皆川の姿がない。
まさか、また変な男に…!?
「黒尾くーん、ここだよー」
焦って辺りを見回した時、呑気な声が俺を呼んだ。
手にはコンビニのビニール袋をぶら下げて、こちらに向かって歩いてくる。
「コラ!ここに居なさいって言ったでしょ!またナンパされたらどうすんの!」
「えぇ!?そんなお母さんみたいな怒り方しなくても…。それに"また"とかないよ!ナンパされたのなんて、今日が初めてだし!」
「…へぇ、どうりで。変な断り方してたもんな」
「酷い!怖かったのに!もうコレ、あげないからね!」
脹れっ面する皆川は、白いビニール袋を目の前に掲げた。
「何?」
「肉まん。下のコンビニで買ってきたの。お腹空いてない?」
「めっちゃ減ってる…」
「よかった!ちょっと質素だけど、お祝いしよ?冷めないうちに」
皆川に促され、二人でベンチに腰掛ける。
試合に参加していた選手たちの大半は帰ってしまったようで、周りに人気はない。
買ってきてくれた肉まんに、あったかい緑茶。
空腹に染み渡るそれを味わいつつ、今日の試合のことを取りとめもなく話した。
あの時のプレーは…とか、ルールとか、皆川がバレーに興味をもってくれてることも嬉しくて…
これだけで、今は充分。
今日は最高の誕生日だ。