第3章 [ろ] ローテンポだって悪くない
「私の家、この体育館の近くなの。それを夜っ久んに話したら、試合の日程教えてくれて…」
「そうだったんだ」
ルールとかわかんないだろうに、一人で最後まで見ててくれたんだ…。
ピンチの局面も、全員で繋いだボールも、渾身のサービスエースも、勝利の瞬間も。
全部、見ててくれた。
そう思ったら、堪らなく嬉しくなる。
「春高出場おめでとう、黒尾くん」
「ありがとな。でも皆川が応援に来てくれてたならさ、もっといいとこ見せたかったわ」
「そんなこと…!あのね、私バレーの試合って初めて見たんだけど、もう凄かった!何か圧倒されちゃった。夜っ久ん退場した時はどうなっちゃうんだろうと思ったけど、黒尾くんがすごくすごく頼もしくてカッコよくて…!もう、感動しちゃったよ…。めちゃくちゃ嬉しい!ほんと、よかったぁ…」
興奮気味に話しながら涙ぐみ、本気で自分のことみたいに喜んでくれてる。
こんなこと言われたら、ますます好きになっちまうよ…。
「ありがと。皆川」
腕を伸ばし、低い位置にある頭にポンポンと手を乗せる。
「…っ」
「もう帰るとこ?」
「うん…」
「じゃ、家まで送る。ミーティングあるから15分…いや、10分待っててくれる?」
「え?大丈夫だよ!ほんとすぐそこだし」
「俺がそうしたいんだけど。ダメ?」
「ダメなんて…。あの…うん、じゃあ、お願いします…」
「おう。フラフラすんなよ?またナンパされるかもしんねぇから。ここで待ってて」
そばのベンチに皆川を座らせたあと、俺は部員の元へ戻り、帰り支度とミーティングをサクサクと済ませた。
「なぁ夜久。今、皆川に会ったんだけど」
「あ、やっぱ来てくれたんだ。よかったじゃん、チャンスじゃねぇか!告白したら?」
「告白!?今日!?俺、誕生日にフラれたら立ち直れねーからな!」
「威張るな。フラれて落ち込むのは誕生日じゃなくたって同じだろ?んじゃあな、お疲れさーん」
痛めた足を庇いつつ、海と二人してさっさと帰っていく夜久。
……薄々思ってたけど。
あいつ、武士か何かの生まれ変わりじゃねーのかな。
青少年のウブな気持ちなんてわかんねーんだ、きっと。