第3章 [ろ] ローテンポだって悪くない
「あのね…実はもうひとつ、黒尾くんに渡したいものがあるんだ…」
お茶を流し込む横から、皆川の遠慮がちな声が響く。
顔を覗いてみれば、心なしか固い表情…?
「…何?」
空気が妙な緊張に包まれる。
「えっとね、コレ、よかったら…」
おずおずと、小さな紙袋を差し出す皆川。
「…?」
「誕生日プレゼント、なんだけど…」
「え…?」
呆気に取られる。
誕生日って、俺の…?
いや、うん、間違いなく俺のだよな?
「…何で知ってんの?俺の誕生日が今日って」
「夜っ久んに聞いた…」
夜久パイセン…!
ファインプレーが過ぎる!!
まさか皆川が誕生日プレゼントを用意してくれてるなんて、夢にも思わなかった。
幸せってこういうこと…?
「ありがとな。見ていい?」
「うん」
紙袋から、綺麗にラッピングされたそれを取り出す。
中には、ネコとサカナの形をしたクッキー。
「もしかして、手作り…?」
「うん。食べてくれる…?」
「もちろん。すっげー嬉しい!」
好きな子から手作りのお菓子のプレゼントなんて、嬉しいに決まってる。
皆川の顔は、そこでやっと綻んだ。
「よかった…受け取ってもらえて!
黒尾くん、お誕生日おめでとう!」
「……」
満面の笑みをくれる皆川を目の当たりにして、思うこと。
今の俺の中の一番は、間違いなくバレーで…
受験もあるし、今日やっと春高へのスタートラインに立てたところだし、クリスマスも年末年始も関係なく練習漬けの日々が続くはずで、これからの方が絶対忙しくなるし…
―――じゃなくて。
いい加減、春高を言い訳にすんなよ。
「俺、皆川が好きです」
………。
……やっべ。
順番間違えたァ…!
祝ってくれてんだから、まずは「ありがとう」だろ!「好きです」はその後で…ってもう遅い!
でもここまで来たら、撤回なんかしたくねぇ。
ヤバ…緊張で吐きそう…。
丸く目を見開いたあと恥ずかしそうに俯いた皆川が、睫毛を震わせる。
か細い声は、そのあとゆっくりこちらに届いた。
「私も、すきだよ…。黒尾くんのこと……」