第3章 [ろ] ローテンポだって悪くない
どこの学校かは知らねぇけど、ジャージ姿のその男に心の中でツッコミつつ、ナンパされてる女の顔を見てみる。
「……は?」
ちょ…、待っ…、はぁ!?
皆川!?
何でこんなとこいんだよ!?
ジャージ男に迫られているのは、間違いなく皆川。
何で春高予選の試合会場にいるのか?とか、一人でここに来たのか?とか、いろいろ頭を過るけど…。
とりあえず、今それは置いといて。
……この野郎、皆川に触ってんじゃねぇよ。
肩やら腕やらベタベタと。
怖がってんじゃねぇか…。
「チョイチョイ、お兄さーん?」
揉めるのはヤバイから、とりあえず苛立ちをめいっぱい抑え皆川をこちらに引き寄せる。
「ボク、この子のオトモダチなんだけど。お兄さん一緒に遊んでくれるってホント?」
「…っ、黒尾くん?」
見上げてくる皆川は酷く驚いた顔をしている。
ジャージ男はと言えば、小さく舌打ちをし不機嫌全開で俺を睨んだ。
「はぁ?誰だよお前。俺はこの子と話してんの。邪魔しないでくれる?」
「いやいや、邪魔なのキミだからね。あ、俺音駒高校の主将、黒尾鉄朗でーす。ついでに言うと、この子のカレシなんで。手ぇ出したら喰い散らかすぞ?」
荒くなる語尾と共に睨み返し、皆川の手を握る。
「行こうぜ、皆川」
「…うん」
背後から悪態をつく声が届くがそれは無視して、俺たちはその場を離れた。
皆川の手を引きながら、我に返る。
カレシって…言っちまったぁ…!
ヤベ…調子乗りすぎ?
もしくはカッコつけ過ぎ!?
引いてる?皆川…。
チラッと皆川を見下ろしてみる。
バッチリ目が合ってしまった。
……髪型、可愛い。
メイクしてるの新鮮で可愛い。
私服も可愛い。
上目遣いでこっち見てくんの、めちゃくちゃ可愛い。
ヤベー。可愛いは正義…!
普段と違う皆川を前にして、今更ながらカッコつけたことが恥ずかしくなってくる。
繋いでいた手を慌てて離した。
「…あの。ありがとう、黒尾くん」
「や、それはいいんだけど。…見にきてくれたの?試合」
皆川は俯き、小さく頷いた。