第3章 [ろ] ローテンポだって悪くない
遂に訪れた、運命の一戦。
ヘビ野郎率いる戸美学園は、やっぱり強敵だった。執拗な攻撃に、客席も審判も味方につける戦法。
俺たちとは違うプレースタイル。
想像以上に苦戦する中、予期せぬアクシデントに見舞われる。
夜久が、怪我で退場。
コートを出て行く夜久の姿を見て思う。
あんな顔させたまま、終わりにできるかよ―――。
正直、夜久の不在は音駒にとって大打撃だ。
しかし焦る気持ちよりも、不思議と集中力が増していくような感覚がした。
主将として、音駒の一員として、今できる精一杯のプレーを―――。
結果は、音駒の勝利。
メンバー全員で獲りに行った"勝ち"だ。
この中の誰が欠けていても、掴めなかった勝利だと思う。
春高―――
行けるんだ、本当に。
コートを出て実感する。
もちろん、これで終わりじゃない。
ここからが本番。
全国の舞台も、烏野との『ゴミ捨て場の決戦』の約束も、ここから―――。
それでもやっとこの地点に立てたことに、湧き上がる喜びを自覚せずにはいられなかった。
「おーっし!着替えて軽くミーティング済んだら今日はここで解散な。あ、更衣室で他校と揉めるなよー、山本」
「うぇ!?俺だけっスか!?」
はい、お前だけね。
前科あり過ぎだからね、このモヒカンは。
一番血の気の多い後輩に釘を刺し、顔を洗うために更衣室から離れる。
手洗い場に向かう途中の、階段に差し掛かった時だった。
その声が耳に入ってきたのは。
「あの…本当に困ります…!」
「いいじゃーん!デートしよ、なんて言ってないよ?君のオトモダチも誘ってみんなで遊びに行こうよ。ね?だから連絡先、教えて!」
「わたし、オトモダチいないんで!いつもボッチなんでっ!!」
ナニナニ、ナンパ?
バレーの試合会場で?
何しに来てんだよ、こいつは。