第3章 [ろ] ローテンポだって悪くない
数日経った、部活がオフの放課後。
進路のことで担任に呼ばれたため、用件を済ませたあと教室へ戻る。
出入口の扉に手を掛けたところで、薄暗くなったその場所に一人帰り支度をしている女子の姿を見つけた。
―――皆川だ。
「まだいたんだ?」
平静を装って声をかける。
いいのか悪いのか、取り繕うのは上手い俺。
胸の高鳴りはひた隠しにして、笑顔を貼り付ける。
俺の声で顔を上げた皆川は柔く微笑んだ。
「黒尾くんこそ。あれ?部活は?」
「今日は休み。もう帰るとこ」
「そうなんだ。私は途中まで帰ったんだけどね、明日提出の宿題、鞄に入れ忘れちゃって。戻ってきたんだ」
「ドジだね~」
「わ、酷い!」
唇を尖らせて俺を見上げてくる皆川は…
ヤベ…かわいー…。
ジッと見つめ返すことなんかモチロンできなくて、思わず目を逸らした。
皆川は今から帰るところ。
お互い電車通学だから、向かうのは駅。
もう日も落ちるし…ってことで。
一緒に帰るのは、アリ?
いいよな?おかしくないよな?
この前のリベンジ!
…チョ、マテヨ。
ウゼーかな…?
一人で帰りたいんですケド、とか思われちゃう?
いやいや、でもこの前学校の近くに変質者出たとか言ってたわ…。
………。
やっぱ普通に暗くなった道を女子一人歩かせるの危ねぇし。
皆川が危ない目に遭うより、ウゼーって思われた方がいいだろ。
「…皆川、駅まで一緒に帰ろ」
「え?」
少しだけ目を丸くした皆川が、また俺を見る。
拒否られそうな雰囲気は、たぶんない気がする。
つーか、拒否られる前に畳み掛けるっきゃねぇ!
「ボクがボディーガードしますよ。もう暗いし、女性が一人歩いてたら危ないじゃないですか」
俺のキャラっぽく、ふざけた口調で言う。
でも正直、内心バックバクだけどね…。
「さっすが黒尾くん。ジェントルマンだね」
ふふっと笑って俺の顔を下から覗き込んでくる皆川は、言葉も表情も仕草もいちいち可愛い。
やっぱ、すげぇ好きだな…。