第10章 【番外編】イケオジ鉄朗と年下彼女
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仕事終わりの20時過ぎ。最近社内で評判の総菜屋が近くにあると聞いて、帰り道だし、家帰ってもメシねーし、ふらりと立ち寄ったのが茉莉との出会いだった。
古びた店先の雰囲気から、所謂"おふくろの味"系ね!と思っていたが、ショーケースの向こうにはデパ地下のデリ並みに色とりどりの洒落たラインナップで若干拍子抜け。
(これ、女性社員たちが騒ぐわけだわ。)
「いらっしゃいませ。すみません、間も無く閉店なのであまりが少なくて…」
ショーケースから声の方に視線を上げる。そこには20歳そこそこのエプロンをした少女が立っていた。
顎くらいの長さの黒髪のショートボブに黒目がちな大きな目。オフィスで働く女子とは違って洗練されたオシャレ感からは皆無だけど、その地の可愛さに気づく男は少なくないだろうな…そういう第一印象だった。
「いやいや。いつもロクなもん食ってない俺からしたらみんな美味そうだよ。」
「そうなんですか…お仕事お疲れ様です!栄養あるもの食べないと!この野菜のマリネとかどうですか?」
"お仕事お疲れ様です"なんて言われんの、いつぶりだろうか…。そんなありきたりな労いの言葉が何故だか妙に染みた。
「んじゃあ、おねーさんのオススメで。」
「はい!」
小動物を思わせる可愛らしい笑顔で返事をした彼女は、慣れた手つきでテイクアウト用のパックに惣菜を詰めていく。
「おねーさんもこの時間まで大変だね。」
黙ってりゃ良いのに何故か勝手に言葉が溢れる。少し話してみたい…。茉莉はそう思わせる魅力があった。
「そんな事ないですよ。親戚の店なので半分自宅なようなものですし。」
「へー。でも栄養バランスの良い食事はやっぱり羨ましいけどね。」
「そうですか?私は惣菜より甘いケーキが食べたいですよ。」
そう言って悪戯に微笑む彼女に、こちらまで釣られて笑みがこぼれた。