第10章 【番外編】イケオジ鉄朗と年下彼女
白く浮かび上がる輪郭を撫で、もう一度抱き寄せキスをすると、茉莉はきょとんとした目で俺を覗き込んだ。
「夕飯、しよっか。」
「はい。」
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黒尾さんが昨晩仕込んだと言うビーフシチューは、驚くほど美味しくて、仕事から料理まで彼の完璧さに私は平伏する思いだった。
聞けば「独身でこの年になればなんでも出来るようになるもんなんだよ」と彼は言うけど、きっと誰もがこんな風に出来るわけでもない。一回り以上年の離れた男の人の"普通"なんて私には到底分かりはしないけど、私の中で黒尾さんはとにかく全部が完璧に見えた。
電気をつけた部屋は、やっぱりだだっ広く、それでも二人だと寂しい気持ちはなかった。黒尾さんもそうだといいな…私は心の中でそう願いながら、彼が買ってきてくれたラズベリーソースのかかったガトーショコラをすくい取った。
「黒尾さん、お誕生日おめでとう。」
「ありがと。こーんな可愛い子と一緒に居られるなんてサイコー。」
「可愛い子なんて…もっと他に居るのに…」
「いないよ。お前が一番かわいい。」
あまりに言われなれない言葉に、掬ったケーキはまだフォークの上。
黒尾さんは度々こんなこそばゆい事をニコニコ簡単に言ってのけるけど、全くもって自分的には納得がいかない評価だから私はいつも反応に困るのだ。
普段、親戚が営む総菜屋でバイトする私。
店は経年経過で古びた出で立ちだけど、ここ最近では若いお客さんのニーズに合わせ、"惣菜"より"デリ"って感じのオシャレなメニューも取り揃えて、近隣の会社で働く人たちによく利用されるようになってきた。
だけど私自身はいつも動きやすい服装にエプロン姿だから、オシャレやカワイイなんて言葉からかけ離れていて…。初めて黒尾さんが店にやってきた時も、デニムにTシャツ。それは夏が終わろうとする9月の終わりの頃だった。