第10章 【番外編】イケオジ鉄朗と年下彼女
彼の唇が私のに触れる。
一回キスをすると「おいで」と誘われ、促されるままに黒尾さんの方に体を向ける。すると、すぐにまた顔と顔が近づいて後頭部に優しく掌が触れたかと思うと、また唇は触れ、今度は何度も角度を変え交えた。
「ん…ふ……くろおさ、ん…っ…」
「茉莉…舌出して…」
吐息交じりの甘く低い声。
言われるままに口を開き舌を伸ばし差し出す。まるで自分で股を開けと言われているのと同じくらいの羞恥心に苛まれながらも、すぐさま絡められる熱い舌の慣れた動きに私はただ溶かされていく…。
「ふぁ…ハァ……ハァ…っ……」
息継ぎさえままならず、彼のシャツを握りしめた手に力が入る。その瞬間それを察してか、黒尾さんは、舌を絡めるのを止め、ちゅっと軽いキスをした。
「見て。茉莉が好きなとこのケーキ買ってきた。」
「こんな種類のありました!?もしかして冬限定の!?」
小さな白い箱の上で止められたテープを剥がしフタを開けると、彼女はそれを覗き込み、まるでキラキラしたアクセサリーに心を踊らせる少女のように一瞬にして瞳を輝かせた。
「みたいだな。」
「それにしても黒尾さん。自分の誕生日にまでケーキ買ってきてくれなくても…今日くらい私が用意したかったな。」
「いいの。俺がやりたくてやってんだから。茉莉を喜ばせるのが俺の生き甲斐なの。いかがですか?お姫様。」
華奢な右手を取り、手の甲に口付け視線だけ彼女に向ける。大きな窓から漏れる東京の明かりのお陰で、幼い輪郭は暗闇でもくっきりと見て取れた。
茉莉と居ると、時々自分が怖くなる。
ここ数年寝る為だけにあるような場所だったはずのこの部屋が、彼女がいるだけで突然こんなにもあたたかい場所になるなんて…。逆に、今まで当たり前だった一人の時間がとてつもなく寂しく感じるようになり、俺はそんな自分に戸惑っていた。
それでも、年甲斐もなくこの気持ちは俺を飲み込み、彼女に夢中にさせていく。
離したくない。
そんな独占欲さえ芽生えてきて、週末は定時で仕事を切り上げるように調節するようになった。