第10章 【番外編】イケオジ鉄朗と年下彼女
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どうにも慣れない黒い革張りのソファーから腰を上げ、床から天井の高さまである窓ガラスから私は夜の街を見下ろした。
普段見上げている建ち並ぶビルでさえ、みな眼下で明かりを灯していてここがいかに高い位置かが分かる。
(私、似合わなすぎ…)
私はズルズルと力なくその場にしゃがみ込み、膝を抱えた。履き慣れないスカートがくしゃりとシワになるのを掌で伸ばし、ため息を窓ガラスに吹き付けると白く曇り、時間をかけて消えていく。
一体何畳あるのか見当もつかないこのリビングに、あの人は日頃一人で暮らしているのか…。そう考えると、羨む気持ちは不思議と湧いてこず、彼がなぜ私を週末家に呼ぶのか少し理解が出来る。
(寂しいよね…こんな広い部屋にひとりぼっちなんて。)
合鍵を渡され、この部屋に来るようになって1ヶ月。だけど来たのは今日で5回目。毎週金曜日。バイトが早く終わるこの日だけ、私はこの部屋に来る。
恋人だというには年の離れた彼、黒尾さんが帰ってくるのを待つ為に__。
ガチャ
それから程なくして、玄関のオートロックが開く音に。私は我に帰った。腕時計にふと目をやると、時計はもうすぐ19時をさそうとしているところ。
ドタドタと慌ただしい足音の方を振り向こうとした瞬間、後ろから長い腕に引き寄せられ、気付けばじんわりと背中越しに体温が伝わり始める。
私の首筋に埋めた顔が口を開く。
「ワルイ。遅くなった。」
「一時間遅刻です。」
「ん、ごめん。つかなんで電気つけねーの。」
「明るいと寂しいもん…」
その瞬間、黒尾さんのトレンチコートがカサカサときぬ擦れの音を立て、私を抱きしめる腕に力が入る。
「俺がいないと寂しいんだ?」
「反省してます?」
「してマス。遅くなってごめん。でも寂しがってくれんの嬉しい。それに今日はスカートなんだ?」
「いつも、仕事帰りの服のままで、デニムばっかりだし…今日くらいはと思って…」
「俺の為?」
顎を掴まれ、振り向くようにして黒尾さんの方を向けば、黒縁のメガネの向こうに爛々と光る猫みたいに鋭い瞳にとらえられる。
「他に、誰がいるんですか…」
「随分可愛い事してくれんね。」