第10章 【番外編】イケオジ鉄朗と年下彼女
昼の余韻を引きずった午後のオフィスにおける、とある会話に俺は耳をそばだてた。
「そう言えば1課の黒尾課長さぁ」
「え、何々!!」
「いや、アンタ食いつき過ぎだってば」
「だって、黒尾さんカッコいいじゃん。後輩思いだしさぁ〜。っで?その黒尾さんの情報どうぞ!!」
「いや、期待させて悪いけど…黒尾課長、ホモらしいよ」
ん゛!?耳を疑うキーワードが聞こえてきて、より意識を集中させる。
「HOMO!?んな、まさか…」
「先週の水曜、新卒の山下君の尻拭いで一緒になって残業してたじゃん?その後何やら例の高級マンションに連れ込んだとかなんとか…」
「…忙しすぎて頭おかしくなったかな?」
「まぁ、黒尾さんバツイチだしね…」
「女は嫌になっちゃった、的な!?」
20代の終わり。仕事で知り合った女性《ひと》と結婚したものの、僅か2年で離婚。理由は俺が仕事にかまけ過ぎたせいと言っておけば、まぁ丸く収まるような話で。平日の帰りは午前様もしばしば。おまけに休日出勤までしようものなら、大概の女は不満に思うに違いない。
それ以来、社畜根性に拍車がかかり35歳の時に課長に。んで気が付けば40代目前。仕事しか取り柄がねぇバツイチ社畜リーマンの出来上がりってわけだ。
はいはい。
なんとでも言いなさいっての!
しかし一つ言わせろ。
俺はホモじゃねーし、
後輩をお持ち帰りだなんて致しません!!
ポリポリとクッキーをつまみながらキーボードを弾く能天気な内勤の女子に内心反論しつつ、俺は猛スピードで頭を回転させていた。
何を隠そう、今日は残業なんてしている場合ではないのだ。オフィスの壁掛け時計を見上げれば15時を少し回ったところだった。