第2章 [く] クロ猫と傘と恋....R18
「茉莉さん…俺…」
クロくんの声が私の頭の上に
ユックリ降ってくる
私は何を言われるの?
キミは何を言うつもりなの?
膨れ上がる不安は
『…邪魔してゴメンね!クロくん!
私帰らなきゃ!』
無駄に大きな声を放たさせた
「茉莉さん!待って…」
買いに来たはずの牛乳を
買わず飛び出したコンビニ
降り出した雨を無視して走り出そうとした私を
「ごめん、これには訳が…!」
クロくんの熱い手が引き止める
聞きたくない
聞くのが怖い
『…どんな理由でも、関係ない。
私は…あの子みたいに笑えない
ごめんね…キミの側に…
私は…居られない』
離れないと
この恋に気付かれる前に
面倒くさいと嫌われる前に
涙顔が見られない距離まで。
「茉莉さん…
それはもう…逢えないって事?」
『…キミがそう思うなら…』
無理やり作った顔は
キミにどう映ったのかは
分からないけど
私の目に映ったキミの顔が
どこか寂しそうに見えたのが
唯一の救いだった
『…また、どこかで』
そんな強がりが言えたのを
自分で褒めて
私は雨の中を去った
それが最後。
それから連絡も無かった
私もしなかった
でも…
逢いたかった
密かに願った再会を
喜ぶ暇もなく強く降り出した雨
久しぶりに見た顔は
記憶より少し大人っぽくて
あの日の甘い匂いも
今日はしなくて
自分を絡みつけたい気持ちが
雨音と共に激しくの心の中を
暴れ回って掻き乱す
『…傘、貸してあげる』
駄目だ。
一緒に居られない。
「…茉莉さんは?
結構降ってきたのに…」
『濡れたい気分だから。
じゃあね、寄り道しないで帰りなよ』
”寄り道しないで”
その裏に込めた思いが溢れる前に
「茉莉さん!」
『クロくん、ごめんね?
私…には無理。
キミの欲しい物は与えられない』
離れてしまわなきゃ
偶然で満足しないと。
行かないでと
言う勇気がないなら。
私の願いは一つだけ
それが叶わないなら。
『…また、見かけたら声かける
さよなら』
次の偶然を待つしかないよね
押し付けた傘は
無意識に期待を掛けた次への糸
繋がるなんか思ってない
でも、もし、もしかしたら…
なんて。
ないよね?
キミがその糸を手繰ってくれるなんて。