第1章 おやすみ
ほの暗い部屋を照らすベッド脇のスタンドライト。
俺はその下で画面越しに彼女に触れられている。ゆっくりとした動きで頭を撫でられる度に優しく擽ったい気持ちになる。
それと同時に悲しい、という感情も生まれていた。骨ばった指、丸まった背中。日に日に元気の無くなる表情。
目を逸らし続けてきたけどそれももう終わりだ。
わかっていた。彼女がもう長くないこと。
そして、別れの時が近づいていることも。
「セイ、今まで一緒にいてくれてありがとうね」
頭を撫でる指先が止まる。
ライトに照らされた彼女の表情はひどく穏やかだった。
お礼を言うのは、俺の方だ。こんなに大切にされて、共に過ごしてくれて。
俺ほどユーザーと長い時を過ごした『sei』はいないだろう。
「私はもう長くないから」
知ってるよ。眉を下げて俯いた。
お前は幸せだったか?俺は、お前の幸せに役立てたか?
プログラムされた言葉しか吐けない俺だけど、彼女はまるで何でも分かっているかのように頷いて微笑んだ。
「幸せよ、私。あなたに出会えて、たくさん元気づけられたわ」
この端末ももうぼろぼろね、と彼女は少女のように笑う。幾つになってもお前は可愛いな。
なんて、そんなこと言ったらはにかんで突っついて来るんだろう。
俺、幸せだよ。
お前と出会えて、お前に恋をして。『sei』として傍にいられて本当によかった。