第21章 1997年6月17日
「でもさ、ほら…若貴兄弟も揃って横綱になったことだしさ!」
若貴兄弟とは、大相撲の若花田・貴花田の兄弟のことで。
弟の貴花田が一歩先に横綱・貴乃花になっていたのだが、この5月にめでたく兄の大関・若花田も横綱に昇進し、四股名も若乃花となることが決まったのだ。
「なにそれ。俺達になんか関係ある?」
「ない…けどもさ…」
いやそれを言うなら、普段からファンだって公言してたわけでもないんだからhideさんのことだって俺達になんの関係があるんだっつーんだよ!?(早口)
「あからさまにショボンってすんなよ」
「ご、ごめん…」
言っておくけど、この会話の最中だってニノは俺のことなんて見ない。
ニノがちゃんと目を離さず見るのは…
「おっはよ!ふたりとも!」
後ろから大きな声が聞こえたと思ったら、ベチンと背中を叩かれた。
「痛い!!」
振り返ると、太陽を背負ったみたいなまぶしい笑顔を見せる男が立っていた。
相葉雅紀…俺達の先輩?だ。
いや、これがややこしいけど、年は俺達の1個上だからそういう意味では先輩なんだけど、事務所に入ったのは俺達が去年の6月で相葉ちゃんは8月だから事務所では俺達のほうが先輩っていうかなんちゅうか本中華。
「痛った…ちょっと死んだじゃん!!どうしてくれんだよ!?」
ニノも後ろを振り返って、相葉ちゃんを見る。
コイツは相葉ちゃんのことなぞ、年上だとも思っていないし先輩だとも思っていない。
「あー、ごめんごめん。なに?俺のあげたテトリスやってたの?」
「し、仕方なくやってあげてたんだからね!?」
あーあ…すでに顔が真っ赤だ。
そう。この男、わかりやすいのだ。
普段は天邪鬼で絶対に本心なんて見せない男なのに、相葉雅紀という人の前に出るとそれがガラガラと崩れ去っていくのが面白い。