第21章 1997年6月17日
6月17日という日が特別なのは、なにも僕の誕生日だからって事だけじゃない。
「おはよ、ニノ」
「…おはよ」
俺の数歩前を歩いている、コイツ。
偶然にも、この二宮和也も生まれた日だからだ。
朝でもないのに『おはよう』などと業界人ぶって挨拶をしてから、ちょっと駆け足をして隣に並んだ。
昨年から通い始めた、学校帰りのテレ朝の稽古場までの道。
ニノは稽古場でぼっちで居る俺と同じくぼっちでいる、所謂ぼっち仲間なのだ。
「ねえ、ニノ。今日はなに買ってもらうの?」
さっきからずっと、ミニゲーム機のテトリスをやってて俺の顔なんか見もしない。
「今日はって…誕生日?」
「うん」
相葉ちゃんから貰ったとかいうキーホルダーになってるそのミニゲーム機を、最近手から離したのを見たのは、レッスン中とトイレに行くときだけだったな。
あんまり持ちすぎて、ボタンのマークなんかはもう擦り消えて見えないほど。
「今年はhideさんの事があったから…なんか、あんま」
「え…?」
hideさんの…というのは、今年5月に自ら命を絶った大物ミュージシャンのことで。
ニノの口からハードなバンドの方の名前が出てくることなんてなかったから、一瞬どこの大滝秀治さんのことかと思った。
あまりのことに俺が凍りついていると、やっとニノは顔を上げた。
「え?俺が真面目なこと言ったらだめなわけ?」
「いやっ…そんなことないけどさっ」
だめとは言わないけど、普段無口なニノの知らない一面を見てしまってどうしていいかわかんなくなるのは、俺だけじゃないと思うの。
あ、相葉ちゃんを除いては。