第20章 こちらアラシノ引越センターの…②
「ふぁ~あ…ねっみぃ…」
もうすぐ大学の二次試験という時期。
高校の授業は自習となっていた。
空席も目立つのは遠方の私学に受験に行っているやつらもちらほらいるから。
そんな忙しないこの時期に、呑気にも隣の席にいる潤はあくびをしている。
「こらあ!徳川!そんなに眠いなら立ってろ!」
自習の監督に来てた教師が怒り出した。
「えっ!?勃ってろ!?」
「そうだ!そこで立ってろ!」
「そんな…俺…そんな恥ずかしいことできないよ!」
教師はそれみたことかと、得意げな顔をした。
「だったらいくら自習中であろうが、教師の前で堂々とあくびなんかするんじゃない!!」
◇
「なんであくびくらいで公衆の面前で勃起しなきゃいけないんだよ!?」
空は抜けるように青くて、雲一つない。
俺と潤はひさしぶりに昼飯を屋上で食っている。
「勃起…」
ぷんすか怒っている潤の長めの髪を、寒風が吹き上げて行く。
お互い、入ってた部活のベンチコートを着こんで来たのは正解だった。
サッカーと野球、どっちも弱小部活で3年の夏で速攻引退したから、ベンチコートは綺麗なままだ。
「勃起か…」
俺と潤のふたりきりでよかった。
こんなのクラスの女子に聞かれたら、卒業式は総スカンだぞ。
「…それ、意味ちがくね?」
「は?どうちがうってんだよ?翔」
地面に座りながら食べかけのパンを片手に、心底不思議ですって顔をして俺を見た。
「廊下に立ってろ、の立ってろだと思うけど?」
「は?」
そう言ったきり、潤は黙り込んだ。
「ほら、サザエさんでカツオが学校で悪いことしたら廊下に立ってろってシーンがあるじゃん?それのことだと思うけど?」
そう言って三角パックのオレンジジュースを飲んでたら、潤が深刻そうな顔を上げた。
「勃起じゃないってこと…?」
「アホか」
潤は突然地面に倒れると、ゴロゴロと転がりだした。
「はっずかし~~~!!!」
「おい。飯に砂飛ぶだろ?やめろよ」
昼飯を庇っていたら、潤がむっくりと起き上がった。
「翔!気づいてたんなら早く教えろよ!」