第19章 こちらアラシノ引越センターの…①
「……なんで稲葉さんが泣いてるんだよ」
「ごめんな!俺なんかよりよっぽどかざまぽんのほうが傷ついてきたのに。考えなしだった!」
「へ…?」
「俺は傷つけないから。かざまぽんのこと…きずぅ…つけないからぁ…」
「もお…なんで…バカ…」
かざまぽんまで泣き出して。
ダイニングテーブルを挟んで、俺たちは泣いた。
鼻水が止まらなくて、困った。
しばらくすると、かざまぽんはティッシュの箱を差し出してくれた。
「あのさ」
「うん?」
ぶびーっと鼻をかみながら、かざまぽんを見ると笑ってた。
「無理だけは、しないでね?」
「うん。それはしないけど、さ?」
「ん?」
「ゆっくり、待っててくんない?」
そう言うと、目の周りが真っ赤だったけど、かざまぽんはさっきよりもいい笑顔を見せてくれた。
「いいよ。待つのは嫌いじゃない」
こんな笑顔、見たことなかった。
雨上がりの空みたいに、とっても綺麗な笑顔。
思わず、ダイニングテーブルの上で右手を差し出した。
そしたらかざまぽんは、さっきよりももっともっといい笑顔で握手してくれた。
「ごめん。俺ももう怖がらない。ちゃんと稲葉さんに聞く」
「うん。そうして?そのほうが俺も嬉しい」
「わかった」
「俺も、ちゃんと聞くよ。かざまぽんに…」
「うん」
年下なのに待たせちゃうけど。
でも、俺もちゃんとかざまぽんのこと考えるから。
だから、待ってて。
俺もちゃんと向き合うから。
一緒に俺たち、始めようよ。
「じゃあさ。聞いてもいい?」
「え?なに、早速」
「誕生日、いつ?」
「…え、言ったよ…?」
神様。
まだ僕はスタートラインに立たせてもらえないようです。
「ごめんてぇ…」
「……」
「インパしよ?奢るから」
「許す」
♡終わり♡