第18章 こちら、アラシノ引越センター!
かしましい稲葉さんが次の現場に向かうと、入れ替わりで大野くんが入ってきた。
「お疲れ様です。午前の現場終わりました」
「お疲れ!どうだった?初めてのリーダー業務」
「ん。まあ…」
二宮くんが嬉しそうに尋ねると、言葉少なく大野くんは答える。
なんだか熟年夫婦みたいな雰囲気を醸している。
そう、私は知っている──
「問題なかったのね?さっすが」
「うん…」
大野くんは帽子を目深に被って、照れているようだ。
今日は契約社員になった大野くんの、現場リーダーデビューの日なのだ。
1.5トントラックとバイト1人を初めて任されている。
「午後は変更無いです。午後フリー1軒ね」
「わかりました。確認表ください」
「はい、これ。いってらっしゃい。お客さんのサイン忘れずにね?」
「うん。いってきます」
書類のファイルを渡すと、大野くんはいい笑顔を二宮くんに見せて事務所を出ていった。
「ラブラブだな」
「だな」
支社長と副支社長のひそひそ話がひそひそになっていないんだけど、私は(勘で)知ってた。
あのふたりが、幸せなこと──
後にこの二人は徳川さんと武蔵さんのように、東京西地区の名物社員になっていく。
そして私は、彼らの部下のような先輩(お局)のような微妙な位置で、彼らと仕事をしている。
「お電話ありがとうございます!アラシノ引越センター、受付担当の野瀬でございます!」
毎日、同じようでいて違う…
今日も、彼らは東京のどこかで幸せを運んでいる。
【終わり】