第17章 上総介の場合
「兄上?いかがされましたか?」
市の声に、ようやく我に帰った。
俺の脱いだ衣服を受け取ろうと手を差し伸べているのに、呆けていたようだ。
ろうそくの灯りに照らされた市の青白い顔は心配げに俺を見上げている。
「すまん」
「お疲れではないですか?」
「そのような年寄りではない」
解きかけていた帯を解き、市に渡す。
「元康殿…お変わりありませんでしたね…」
年頃を迎えた娘らしく、頬を染め遠い目をしている。
「ああ…あの眉の太いことよ…」
「人のこと言えます?」
「むう…」
まあ、今俺が考えていた奴のことを口にするとは、なかなかやるではないか。我が妹よ。褒めて使わす。
「…どうだ?あんなに恋い焦がれて会いたがっていた君を、久しぶりに見た感想は?」
「なっ何を仰せで!?」
何かをごまかすように俺から小袖を剥ぎ取ってしまうと、ばたんばたんと音を立てて畳み始めた。
「古馴染みの元康殿がお元気そうでいらして嬉しいだけです!」
「ほお…?」
「ほ、本当です!」
乱暴に寝間着を俺に着せると、真っ赤な顔をしている。
「確かに…美味そうに育っていたな」
「あっ…兄上っ…」
「なんだ?」