第12章 BOY【M side】EP.5
慌てて立ち上がったら、目の前にペットボトルが差し出された。
「どこいくの?」
知らない男が、俺に向かって微笑み掛けてた。
「あ…に、荷物…俺の荷物どこっ!?」
「ああ…受付の横のロッカーにまとめて入ってるから。大丈夫だよ?」
ふふっと笑うと、俺の肩を押して床に座らせた。
男も隣に座り込んだ。
壁に凭れ掛かると、俺にペットボトルを差し出してきた。
「あの…?」
「飲みなよ」
とっても人のいい顔で笑うから。
思わず受け取った。
蓋を捻ったら簡単に開いた。
ごくりと飲むと、のどが渇いてることに気づいた。
一気に半分近く飲み干す。
男はそんな俺を見て笑った。
「あんなとこで泣いてるんだもん…だめだよ…?」
そっと俺の髪を撫でた。
そのまま顔を引き寄せられて。
男の顔が近づいてきた。
「やっ…」
「大丈夫だよ。ここはそういう場所だから…」
そういう、場所…?
「男しか居ないから、安心して…」
周りをよく見たら、どこそこの影で男同士で絡み合ってる。
ああ…”そういう”場所ね…
「…家出…?」
「うん…」
ちゅっと軽い音を立てて、男の唇が重なった。
「行く宛、ないの…?」
「ない…」
二宮の顔が、一瞬よぎった。
でも一瞬で
消えちゃった
「どこにも…行く場所なんて…」
「そっか…ふふ…」
ゆっくりと男が俺を床に押し倒してくる。
「名前は…?」
「…潤」
「ふうん。いい名前…」
あれ
なんかおかしい。
男の顔がぼんやりとぼやけて見えた。
目を閉じたら、眠りに引きずり込まれそうになる。
ぼんやりと、逃げなきゃと思った
でも、動けなかった
男が俺に覆いかぶさってくるのが見えた
背後に、知らない男たちがいるのが見えた
ああ…
堕ちていくんだな
にやけた男たちの顔をみてたら
なんとなく、そう思った
【窮鼠、愛を噛む②へつづく】