第8章 遠別
15分ほど、勘だけで運転して。
目的地に着く前に、もういよいよ動けなくなった。
完全なるホワイトアウト…
窓の外は真っ白で埋め尽くされて。
もう道路がどこにあるかも見えなかった。
「ここまでだな…」
「うん…」
エンジンを掛けたまま、車を停止させて。
そのまま車のライトを消した。
君はルームライトをつけると、足元のバッグからマグを取り出して。
蓋を開けると、コクコクと飲んだ。
「はいどうぞ」
「ありがと」
微笑んでる君の息は白い。
俺に差し出したマグからも少し湯気が出てた。
中に入ってるコーヒーは、さっき淹れたものなのに、もうぬるくなってた。
「やっぱ寒いんだね…凄い…」
「うん…ね、凄いよね…」
マグが空になるまで、お互いに飲んで。
「ねえ…なんか曲聴こうか…」
「そうだね…愛の夢がいい…」
「わかった…」
オンボロ車にただ一枚だけ積んでたCDを取り出す。
カーステレオの挿入口にCDを差し込むと、静かなピアノの旋律が聞こえてきた。
「ねえ、ずっとキスしてようよ…」
いたずらっ子みたいに笑うと、ダウンのフードを後ろに下ろして、ニット帽を脱いだ。
俺もフードを下ろして、ニット帽を脱いだ。
君の柔らかい猫っ毛を撫でると、唇を合わせて…
ダウンジャケットの腕を引いて、君の体を抱きよせ。
ふたりでひとつの生き物になったように
ずっとキスをし続けた
愛してるよ…
この世でただひとり…
君だけを愛してる…
君に出会えて…
君と暮らせて…
とてもしあわせだった
愛してる…
永遠に…愛してるよ…