第4章 二つの神に宿さるる生命
智が、座したままでくるりと身体の向きを変える。
その手には、描か上げたばかりの絵図が握られていて、智はそれを板間の床に置くと、翔の前へと差し出した。
「納得の行く絵図が描けたのか?」
「はい。でもまだ完成とは…」
「それでも構わんよ」
翔は差し出された半紙を手に取ると、行灯の灯りに照らした。
「これ…は…」
翔は智の描いた絵図を見るなり、心底驚いた様子で目を見開き、息を飲んだ。
その様子を、智は不安気に見ている。
「いかが…ですか? やはりまだ私には…」
「いや、待て…」
翔の手から半紙を引き取ろうと手を伸ばした手を、翔はたった一言で制すと、半紙を床板の上に置き、両の腕を組んだ。
「良く描けてている」
「えっ…?」
「明日にでも早速色を付けてみると良い」
「色を…ですか?」
首を傾げる智に、翔は優しく微笑み組んでいた腕を解くと、半紙に描かれた二対の神絵を指さした。
「そうだ。この絵に色を付け、生命を吹き込んでやるのだ」
「生命を…」
智は半紙を手に暫く考え込み、それから漸く笑顔を見せると、半紙を史机の引き出しに仕舞い、安堵の溜息を一つついた。
「さて、もう夜も深い。そろそろ床に就くとするか」
「こんな時分まで私…」
時が経つのも忘れ没頭していたことを翔に詫び、智は翔が脱いだ羽織を受け取り、庭先に目を向けた。
気付けば、地鳴りのような雷鳴は遠ざかり、草木を揺らしていた強い風もいつの間にか止んでいた。
【二つの神に宿された生命】ー完ー