第3章 呼び覚まされる往の記憶
そんな潤子の様子を、最初こそ微笑ましく見ていた昌弘だったが、不意に過ぎった疑問に気付いてから、頻りに首を傾げ始めた。
「でもよぉ、潤」
「え?」
「智坊はお前ぇとと同じ男だろ?」
「それがどうかしたか?」
潤は昌弘が何を言いたいのか分からず、怪訝そうに眉をひそめた。
「だけどよぉ、お前ぇご河原で会ったのは、娘っ子だったんじゃねぇのか?」
「ああ、そうだよ」
「お前ぇ、それて良いんか?」
潤自身、そのことには当に気付いていて、今更昌弘が何を言ったところで大して驚くこともない。
そして昌弘が何を言いたいのかも、十分に承知している。
「父ちゃん、おいら思うんだ。人が人に惚れんのに、男も女も関係ねぇって」
「まあ…、そうだけどよぉ…」
どうにも納得のいかない昌弘は、畳の上にどかりと胡座をかき、両腕を組むと、深く考え込む素振りを見せた。
男色が禁じられているわけではないし、同じ長屋に住む和也だって陰間に身を置き、自身が陰間であることを隠そうともしない。
勿論、昌弘が陰間の存在を毛嫌いすることもない。
ただそれは他人であればこその話で、自分の息子が…となればまた別だ。
やっぱり駄目だ。
これ以上二人を会わせるわけには行かねぇ。
昌弘は密かに心を決め、組んでいた腕を解き、両膝をぱんと手で叩いた。
『呼び覚まされる往の記憶』ー完ー