第2章 艶やかなる牡丹の如く
心を無にし、頭に浮かんだ絵図を半紙に描いて行く。
何枚も何枚も…納得の行く絵図が描き上がるまで、半紙に絵筆を走らせ続けた。
漸く絵図が描き上がり、気付いた頃には、床には描き損して丸めた半紙が無数に散らばっていて…
「これではまた智に小言を言われるな…」
翔は俄かに痺れを感じる足を解き、丸めた半紙を一つに纏め、屑箱に投げ入れた。
「さて、そろそろ智を起こしてやらねば…」
外はすっかり夕闇が広がり始めている。
いくら仕事とは言え、いつまでも一人にしておけば、また機嫌を損ね兼ねない。
行灯の火を小皿に満たした灯し油に移し、襖を開くと、仄かな光が薄暗い部屋を照らした。
「智、そろそろ起きなさい」
そっと肩を揺すってやると、智は「ん…」と小さく頷いてから、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
「お仕事…は? お済みですか?」
「ああ、済んだよ」
「良い絵が描けましたか?」
「描けたよ」
それを聞いて安心したのか、智は身体を起こすと、脱いだままになっていた着物を肩にかけた。
「では、そろそろ夕闇の支度を…」
「そうだな、そうしてくれるか」
翔は智の唇に口付け、身なりを整えるのを手伝うと、前掛けを締め、土間へと降りて行く智の背を見つめた。
着物の下に隠された、大輪の牡丹を…
『 艶やかなる牡丹の如く』ー完ー