第2章 ホットミルク
それにしても、誰かと一緒に、こんな風に夜中のキッチンで、しかも自分の家じゃない所でホットミルクを飲むなんて、ずいぶん奇妙だと思った。
坂田さんも同じ事を思ったのか、
「なんかこれさ、今ちゃんが撮影してる映画のシーンみてぇじゃね?」
と言った。
確かに、昨日撮影したシーン(私がNG連発したのとは別)で、キッチンでは無く階段だったが、私と恋人役の△△さんでココアを飲むというのがあった。
「そうですね。ってか、けっこう見てるんですね。撮影」
「そりゃー見るよ。こんな機会なかなかねーもん」
「面白いですか?この映画、ヒットすると思います?」
「おーするする。全米が泣くよ」
「ハリ◯ッドじゃないんですけど」
「じゃーあれだ。日本中を感動の嵐が吹き荒れるよ」
「絶対、適当に言ってますよね」
私は苦笑して、でもずいぶん気持ちが軽くなっているのを感じた。
ホットミルクを飲み終え、寝室へ戻る時には、まぶたが少し重くなってきていた。
「ちゃん眠れそう?何なら銀さん、腕枕するよ」
「結構です。私、枕変わると眠れないタイプなんで、自宅からわざわざ持って来ているくらいなんで」
「ざーんねん。んじゃま、おやすみ」
坂田さんは手をひらひらと振り、私の部屋のドアを閉めた。
ごそごそと音がする。ドアの向こうにほとんど知らない男の人がいるというのに、何故か私はとても安心して、その後は夢も見ずに眠った。