第1章 サムライ
マジか。私はソファーで向かい合う男を見て、まずそう思った。
くるんくるんの銀髪。いやこれは、本人の責任じゃなさそうだからツッコんじゃダメだよね。でも、目にやる気無いし。で、服?着物?なんで片肌脱いでるの?一回普通に着た後わざわざ脱ぐの?何のために?暑いの?ってか、今、さりげなく鼻ほじった?
ADに買いに行かせたイチゴ牛乳を、心底嬉しそうに飲む男に営業スマイルを向けたまま、私は隣に座るつんぽの足を蹴った。
事の起こりは1ヶ月程前にさかのぼる。
私の主演映画「主の名は」がマカダミー賞を取ったのをきっかけに、メディアへの露出が増え、比例してファンも増え、ファンの中にはいろいろいて、簡単に言えばストーカーまがいの者が現れたのだ。
普段はセキュリティの管理されたマンションに住んでいるから、まぁまぁ安心なのだが。明日からは来年の夏に公開予定の映画「さよならパンケーキ」の撮影の為、江戸郊外の山にあるペンションに1週間泊まり込みになる。
スタッフもいるが、やはり心もとないからと、プロデューサーのつんぽが連れて来たのが、目の前の男ー坂田銀時だったのだ。
「本当に大丈夫なんでしょーね」
坂田さんが帰った後、私はつんぽを問い詰めた。
「腕っぷしは拙者が保証するでごさる」
そう言うつんぽを信じていないわけではないが。
「だってあの人の刀、木刀じゃない?しかも洞爺湖って書いてあったし。イチゴ牛乳おかわりしてたし」
別に洞爺湖にもイチゴ牛乳にも非は無いが、なんというか「信頼感」に欠ける。
「大丈夫でごさる。いざという時は頼りになる男でごさるよ」
つんぽはそう言い、私の肩を叩いた。
結局木刀の男、坂田さんは撮影に同行する事になり、意外にも、と言ってはなんだが、そつなく過ごした。
撮影中は邪魔にならない、しかし私が見える位置に立ち、スタッフが荷物を運ぶ際はさらっと手伝っていた。
差し入れで置かれているお菓子をやたらつまんではいたが、まぁそれくらいは大目に見よう。見ているこっちが糖尿病になりそうだったけど。