第11章 闇 終
すると、花奏が突然、
カカシから、するりと離れる。
「ここでちょっと待ってて? すぐ終わるから、ね?」
そうカカシに優しく言って、
玄関の中へとかけ足で向かった。
「花奏?」
ワケがわからず、様子を眺めていれば、花奏は、下駄箱を開けて、なにかをゴソゴソと探している。
「あ、あった」
戻ってきた花奏の手に、
ピンク色のサンダルがあった。
そのサンダルを、カカシの足もとに、そっと置く。
「はい、私のお気に入りだけど、貸してあげる。 だって、裸足なんて寒いし、それに痛いよ? 」
しゃがんでカカシを見上げた。
「私より足のサイズ、1センチぐらい大きいよね。 靴だと小さいから、靴ずれして痛いし、サンダルだったらいける?」
明るく微笑む花奏。
カカシの目が真っ赤で泣き腫らした顔を見ても、いつもどおりで変わらない。ヒマワリみたいな笑顔だ。
足の裏や指先が怪我していることも花奏は気づいていた。でも言わなかった。オレが断ると思ったのだろう。
「これ、かわいいでしょう? お父さんに買ってもらったの」
ピンク色のサンダルには、丸い大きめのシールが貼ってあった。ごろんと草むらで、気持ちよさそうに寝転ぶクマが印刷してある。
となりには黄色いヒヨコもいた。 クマの周りには、春らしい花が咲いていた。
お父さん
カカシは気づく。
もし花奏の父さんがいるなら、
伝えていかないとダメだ。
「花奏の、父さんは?」
一瞬、声を出すのさえ躊躇した。
父さん。
父さん。ごめんな。置き去りにして。
すぐ行くから。
ごめん。オレ、チビだから、父さんを運べないんだ。
本当にごめん……寂しいよな、すぐに帰るよ。
花奏は、「お父さん?」と聞き返す。
「今日も仕事だよ、暗部だし。 明日は休みかな? とりあえず行こう。急ぐんだよね?」
「うん、悪い」
カカシはサンダルを履く。
ずきん、と足裏に響いた。
もう一度、花奏に触れたくて
カカシはぎゅっと抱きしめる。
目は閉じていた。
「花奏、ありがとうな」
「うん、いいよ。 いつでも頼って?」
「ごめんな、助かる」
心が落ちついて、優しい気持ちになっていた。