第11章 闇 終
ダンダンダン!
カカシは、木の玄関引戸を壊れるぐらい強く叩いた。
きつく握りしめた拳が 肌に深く食い込む。爪の跡が手のひらに残り、赤くなる。 それでも力は緩めない。
家にいるだろうが、余裕が残っていない。 声が聞こえるまで、カカシは叩き続けるつもりだった。
どうしても、この家に住む子に、
すぐにでも出てきてほしかった。
カカシ自身も、よくわからない。
ただ、なんとなく会いたくなった。
無性に。
ただ、どうしても顔を見たくなった。
今すぐに。
いない……?
一瞬、カカシのあたまに
不安がよぎる。
気配を探る余裕もなかった。
感覚だけで、そう思い、
不安が少し大きくなったとき。
「はーい、待ってー」
と、明るくて澄んだ声が、
家の奥から聞こえた。
玄関の点灯がパッと明るくなり、カカシを照らす。
「いま開けるねー」
カカシは優しい声音を聞くと、落ち着いてゆく。安らかな気持ちに変化していた。
さきほどまでの、激昂して暗くどん底の感情が、徐々に収まっていく。
カカシは視線を落とした。
玄関の庭には、花壇や鉢植えが色とりどりに綺麗に並んでいる。
電灯がつくまで、
暗くて見えなかった。
淡い紫色のパンジーや、レモン色のスイセンの花が鮮やかに咲いている。
そして毎年春になると、
赤やピンク、黄色、白、そしてオレンジや紫、
色とりどりのチューリップが満開に咲きほこっていたことを、カカシは思い出していた。