第11章 闇 終
ちょうど、家を
飛び出したときだった。
大きなお腹部分に、
カカシの顔が、ドン、とぶつかる。
全身から 汗がにじむ。
息も上がり、呼吸が苦しい。
どこへ行くんだ。自分でさえ、よくわからない。逃げたい。この場から消えてしまいたい。いなくなってしまいたい。
カカシは、だれかに当たっても、
構わず走ろうと横切った。
「……カカシか?」
名を呼ばれ、反射的に顔を上げた。
カカシはゾッとする。
表情は緊張で強ばり、息を飲んだ。
ヤナギの父親である
フジが目の前にいる。
カカシの汗は
さらに噴き出た。
いま、もっとも会いたくない男。
いま、もっとも殴りたい野郎だ。
たくましく鍛え上げた体格の
中忍の30代。
木ノ葉隠れ里のベストを着て、
額当てをつけていた。
となりは、見慣れた幼馴染が立つ。
ヤナギの手は、ビニール袋があった。
ビニールの中身は、牛肉、玉ねぎ、人参、カレーのルーが入ったパッケージ。甘口と はしに印字がある。
そして、今日芋掘りでもらった
たくさんのジャガイモは、反対側のビニール袋に入っていた。
「母さんとカレーを作るんだ。 カカシの家もカレーか?」
泥だらけの任服を着たヤナギが、カカシに聞いた。屈託のない笑みを浮かべながら。
「いいや……」ちがう。
父さんは、カレーをもう作れない。
もう、おかえりって言ってくれない。
カカシはジャガイモを、勧められたが、もらわなかった。サクモが体調を崩しがちだった。だから、カカシは、最近、料理も担当していた。
朝食の、ナスの味噌汁と秋刀魚の塩焼きが、まだ2日分ぐらい、冷蔵庫に残る。夕食も同じメニューのはずだった。
いま振り返り考えれば、
父さんは、いつもより、たくさん、
秋刀魚を焼いていた。
本当の理由は……。
カカシの目のふちが赤くなる。
もう朝には、覚悟していた。
なんで、
なんにも相談してくれなかったのよ。
なんで、独りで、ぜんぶ抱えて
逝ってしまったんだ、父さん。
なんで。なんで。
息子にさえ、弱音を言ってくれなかったんだ。
もしかしたら、父さんは。
言いたかったのに、弱音を言えなかったのか……?
弱い部分を見せれなかったのか。
そんな自分が嫌になったのか。
カカシは暗いどん底に堕ちた。