第11章 闇 終
「あの偉大なるサクモさんですよ? 伝説の三忍すら、サクモさんの前では霞むんですよ? カカシくんの気の迷いだよ」
クスクス、カルテを書く医師。
誤診だ。
カカシは大声で怒鳴りたかった。
「それに……」
医師はカルテをパラパラとめくり、
業務的に喋り続ける。
「簡単な問診を見ても、問題ありませんね。 まあ、少々食が細くなってますね。 そのお薬は、出しておきましょう」
医師は迷うことなくカルテに記入する。そんなわけない。ぜったいちがう。ちがうでしょうが!
カカシは医師が喋るあいだ、反対の言葉を口にした。
声に出さない。頭で言った。
当時7歳だった。さらに相手は専門家だ。
だから、ほんとうに、
思い過ごしかもしれない。
オレは
心配しすぎて周りが見えていないのか?
気持ちがグラグラと
シーソーのように揺らいだ。
「カカシは心配すぎだ」
サクモは、くしゃくしゃと、
頭を撫でる。父さんの腕が細かった。数キロ痩せたんじゃないか。目の前が真っ暗になりそうだった。
「父さん……ほんとうに大丈夫? じゃあ、ちゃんと食べてちょうだいよ?」
オレは父さんに聞いた。
「はははは。 カカシは心配性だなー。 母さんに似てきたんじゃないか?」
ぽんぽん頭をたたくサクモ。
歯がゆい気持ちだった。
こんなカラ元気な姿を見せて、
父さんは なにを考えているんだ。
オレは父さんの息子だ。何年ともに暮らしてきたと思ってんのよ。 やっぱり全然違うじゃないか。あの任務から、ひとが変わったみたいだ。みんな、どうして気づかないんだ。
「予防薬は……」
しがみつくように、白衣の背中に聞いた。そうだ、せめて薬を飲めば、変わるかもしれない。
医師は振り向き、にっこりと微笑む。
「いりませんね。なんにも。あのサクモさんですよ? そんな弱い方じゃない」
きっぱりと断言した。
オレはそれ以上なにも言わなかった。
自分で自分を納得させた。
父さんは大丈夫なんだ。
ご飯をちゃんと食べると言ったじゃないか。
大丈夫なんだ。病気じゃない、鬱じゃないんだ。
「ほら、帰るぞ、カカシ」
あたたかく大きな手で、ぎゅっと握るサクモに、カカシは、どこか、ホッとしていた。
医師があんなに言ったんだ。間違いないんだ。
自分の父親は病気じゃない。
よかった、よかった、と……。